はじめに
「あのクラスで私は何を頑張っていいか分かりません。どんな工夫をしても私語やスマホの使用率が抑えられません。立ち歩く子もいるし、暴言を言ってくる子もいて手の施しようがないです。」
というような相談を、ある時私の勤める高校の同僚の先生にしました。
私が授業担当しているクラスの1つについての相談です。そのクラスの生徒たちは落ち着きがなく、授業どころではない状況でした。先生に反抗的で指示が素直に聞けないのは2~3人程なので、まだ学級崩壊は起こっていないと思います。
でも予備軍的な子が目立ってきて、少しでも何か手を打たないとすぐに学級崩壊が起きるんじゃないかと予感させるようなクラスで、私は毎日もがいていました。
一定の子達から暴言を言われることも、授業が何の意味もないこともつらくて病みそうでした。
でもそんな中で、相談した同僚の先生から教わった“あること”を始めたら、少し空気が変わってきました。
それが「コグトレ(認知機能トレーニング)」です。
コグトレとは?(簡単でわかりやすく)
コグトレとは「認知機能トレーニング」の略で、注意力、記憶力、判断力などの“考えるための土台”を育てる方法です。
学習につまずいている生徒の多くは、「知識がない」のではなく、「集中できない」「情報を整理できない」「間違いに気づけない」といった“土台の部分”に課題を抱えています。
コグトレは、その土台をやさしく育てることができる支援法なんです。
私のクラスで実践した“コグトレ”
私が最初に取り入れたのはプリントを使ったシンプルな方法で、先生にとっても簡単なものです。トレーニングの種類は色々なのですが、最初に選んだのは「記号さがし」といって、たくさん記号が並んでいる紙の中から◎(二重丸)だけを数えていくという活動です(記号の種類は何でもOK)。時間も競います。
例 ◎ △ ◯ □ △ ☆ □ ◎ ◯ ☆ ◎ △
★ ◯ △ ◎ □ ◯ ☆ ★ ◯ ◎ □ △
→ ◎(二重丸)をすべて探して丸をつけながら数を数えましょう。(実際はもっと記号がいっぱい)
授業開始の10分だけです。口頭の指示が通らないクラスでも、シンプルにルールがプリントに記載されているので、少し読めば理解できる子が大半です。
それまで、授業中静かになる時間が1秒もなかったようなクラスで、初めて沈黙したんです。
しかもいつもスマホを見たり私語が絶えないような子も、真剣になって◎を数えていました。これを見たとき、大声で笑いたくなるくらいおかしくてうれしかったです。コグトレすごい!と思いました。
同時に、私は今まで生徒たちに難しいことを求めすぎていたんだと反省しました。コグトレは、学習を支える効果を狙いながら、誰でも理解して参加しやすいです。だから自己肯定感を感じられて、楽しいと思えるのではないかと思います。
コグトレを終えた後もそのままの空気を維持できるわけではないですが、確かに、“目が合う”“机に向かう”という一歩が始まりました。
これがどんなにすごいことか、貴重なことか、荒れた学校で教員をしている方なら共感してくれる方が大半ではないかと思います。
どんなトレーニングがあるのか
先ほど私が紹介した「記号さがし」は数えるトレーニングです。数えるでは、ほかにもまとめる、あいう算、さがし算などのトレーニング法があります。
数感覚や集中力、短期記憶の力、抑制の力を養います。計算スピードを上げ、学校のテストでの不注意を減らす練習にもなります。また日常生活においても素早く適切な判断力が必要な場面で役に立つトレーニングです。『すこしやさしいコグトレ できないことができるようになる認知機能強化トレーニング』(宮口幸次・高村希帆/三輪書店)
他にも、覚える、写す、見つける、想像するトレーニングの紹介と資料があり、色々な活動を通して生徒の学びの力の土台を作っていきます。
コグトレがもたらす変化
コグトレは授業の最初に取り入れています。シンプルで分かりやすい活動ですが、集中したり、少し考えてみないと正解できない活動なので、生徒たちの集中力を引き出しやすいと感じました。
通常授業に戻るとやはり騒がしくなることはありますが、最初の15分を集中して取り組めたら、その勢いでクラス全体の意識が授業に向かう日もあります。一貫性バイアスなのかなと思います。
コグトレで生徒たちが授業に向き合えた時、絶対に外してはいけないことは、ほめることです。
「あれ!A君頑張ってるね」「いいねえ、Bさんも素敵だね」と、ポジティブな言葉をいっぱいかけてあげましょう。
荒れたクラスでは、生徒たちを叱ることが多いと思います。でもいつも叱るというコミュニケーションしか取らない先生の言うことを、生徒たちは聞きませんよね。
少しでも課題に取り掛かれた時や、いい行いができた時にはすかさず側に行って、「頑張ってるね!」と声をかけてあげましょう。
私は高校で働いていますが、高校生でも褒められると意外とうれしそうな顔をします。
私もまだまだ生徒指導が分からないことも多く手探りですが、普段から、あなたのことを見てるよ、あなたのことが好きだよということが伝わるように、関わり方を考えています。
機嫌をとることとは大きく異なるので、叱る場面ではしっかりダメだということを伝えます。生徒たちを認めてあげられるような声掛けをする中で、だんだん生徒たちはもっと認められたいと思い、少しずつ授業で頑張る時間が長くなります。
コグトレで完全に荒れは消えないのか!と思うかもしれませんが、焦りはよくないです。まずは、最初の10分、15分静かにできた生徒たちと、自分自身を褒めてあげましょう。
これは、特別なスキルや教材がなくても始められる、誰でもできる支援です。
【中古】コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレ-ニング/三輪書店/宮口幸治(単行本(ソフトカバー)) 価格:1,829円(税込、送料無料) (2025/5/20時点) |
保護者の方・他の先生方へ伝えたいこと
「授業が成立しない」「家で全く勉強しない」
そんな悩みを持つ保護者や先生は少なくないと思います。
でも、「できない」の奥には、「見えにくい困りごと」が隠れていることがあるのだと、少し気持ちに余裕が出てきた今、考えるようになりました。
そう考えることで、気持ちが楽にもなりました。全て先生のせいではないと思います。
何で騒がしくするのかな、暴言を言ってくるのは理由があるのかな、と向き合っていくことがとても大事です。
つらい状況ではなかなか厳しいことかもしれませんが、現状を理解して、誰かに聞いたり勉強したりして、その先に解決が待っているのだと思います。
生徒たちは大人ではないので、人との距離感をつかむのが苦手だったり、言葉がきつくなってしまったりします。大人はそれを真に受けないように頑張ることも大事です。
自分が傷つけられて苦しい、つらいと私は今でも思ってしまいますが、生徒からのメッセージなんだと受け取りなおします。
どうしたらメッセージの意味が分かるかな、助けになれるかなと考えます。人間同士なので、単に気が合わない場合もありますが。
コグトレは、そんな悩みの解決策になるかもしれないです。
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