はじめに:授業中の“気になる”行動、その原因は?
「話を最後まで聞けない」
「何度言っても忘れる」
「ミスをしても気づかない」
こんな様子の生徒を授業中によく見かけませんか?
もしかするとそれは、本人のやる気や性格の問題ではなく、「認知機能のアンバランスさ」から来ているかもしれません。
認知機能とは?|脳の“基本的な働き”
**認知機能(Cognitive Functions)**とは、
人が「見る・聞く・覚える・考える・判断する」といった、あらゆる活動の土台になる脳の働きです。
学力や行動面に直接影響するため、“学ぶ力”や“日常生活をスムーズに送る力”のベースとも言えます。
主な認知機能と、子どもによくあるつまずき例
認知機能 | 内容 | 子どもによくある様子・つまずき |
注意力 | 必要な情報に集中する力 | 周りが気になって授業に集中できない |
記憶力 | 情報を覚えて思い出す力 | 単語や漢字がなかなか覚えられない |
ワーキングメモリ | 指示を一時的に覚えて行動する力 | 「プリント出して、名前書いて」が覚えられない |
処理速度 | 情報を素早く理解・反応する力 | 作業が遅れてついていけない |
視空間認知 | 形や位置関係を把握する力 | ノートの文字がずれたり、図形問題が苦手 |
認知的柔軟性 | 考えや行動を切り替える力 | 間違っても気づかずにそのまま進めてしまう |
宮口幸治さんは著書『コグトレ 認知機能強化トレーニング』の中で、次のように述べています。
より詳しく調べていくと、みる力やきく力の弱さは、勉強ができないばかりでなく、以下のようなことにもつながっていました。
・相手にその意図がないのに、「あいつが睨んできた」、「僕の顔をみて笑った」、「きっと僕のことを馬鹿にしている」と怒りをためる
・場の空気が読めないので、「みんなが僕を避けている」、「僕だけ差別されている」と勘違いし、怒りをためる。
・みる力が必要となるさまざまな活動・作業がうまくいかず、「馬鹿にされる」と自信を無くす
・先生が何を言っているかきき取れていないのに、それを気づかれるのが嫌でなんでも「はい」と言ってしまい、後になって、先生やみんなから「あいつはふざけている」、「不真面目だ」、「嘘つきだ」と思われてしまう。
・友人は悪口を言っていないのに聞き間違え、「僕の悪口を言った」と勘違いして怒りをためる
(宮口幸治『コグトレ 認知機能強化トレーニング』三輪書店、2015年)
私は、生徒たちの言動を私たちの常識のまま受け取って、あの子は何をやってるんだと怒りを感じたり、うまくいかないと悩んだことがあります。もちろん全てが認知機能の弱さに当てはまるわけではありませんが、何か困ったことがあるのかもといろんな可能性を調べて疑っていくことで、自分自身を支えることもできますし、何より生徒のサポートの方法を見つけることができます。
なぜ認知機能が大切なの?
認知機能は、知的な学びの基礎であるだけでなく、「できる」「分かる」「楽しい」体験を増やすための鍵でもあります。
特に、小学校〜高校の間は、認知機能が大きく発達する時期。
この時期に「苦手なまま」にしてしまうと、
- 勉強への自信をなくす
- 挑戦する気持ちが持てなくなる
- 行動面で誤解されやすくなる
といった二次的な問題も生じてしまいます。
認知機能は鍛えられる!
良いニュースは、認知機能はトレーニングで育つということです。
私は、授業の導入やスキマ時間に「コグトレ(認知機能トレーニング)」を取り入れていますが、
- 生徒が集中しやすくなった
- 自信を持ち始めた
など、目に見える変化も感じています。
おわりに:認知機能は「見えない困りごと」のヒントになる
目には見えないけれど、学びや生活のすべてを支えている「認知機能」。
子どもたちの困りごとの背景に、この“見えない土台”があることを知っておくと、対応や声かけが変わってきます。
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