はじめに:子どもの「自信がない」はどこから来るのか?
授業中生徒たちに指名するとき、考える前に、「無理」「できない」と言って、極端に発言することを嫌がる子達がいませんか。それ以前に、指示した活動に取り掛かれない子もいるんではないでしょうか。
勉強を教える立場として、子どもにやる気を出してもらいたいと思っていても、そもそも「やる前からあきらめている」状態では、なかなか成果につながりません。
この「やる前からあきらめる」状態の根っこにあるのが、自己肯定感の低さです。私は高校で教員をしています。クラスによって違いはありますが、学力の低い子が多くいるクラスの授業も受け持っています。
そういったクラスで、その自己肯定感の低さを感じることが多いです。
これは推測でしかありませんが、小、中学校時代で、自分は勉強ができないと言われてきたのか、またはそれを痛感させられる出来事をいっぱい経験したために、「できない」という気持ちがが自分の中に染み込んでしまったのではないかと思います。
しかし、自己肯定感を上げるために何をすればよいか?と聞かれると、具体的な方法がわからないという方も多いのではないでしょうか。
私もそうでした。
でも、授業中にコグトレ(認知機能トレーニング)を取り入れるようになってから、生徒の表情や取り組む姿勢に少しずつ変化が見られるようになりました。
「できた!」という感覚を積み重ねることが、自己肯定感の土台になるのではないか?
この記事では、そんな気づきをもとに、コグトレと自己肯定感の関係についてお伝えしていきます。
自己肯定感とは何か?学校生活での影響
「自己肯定感」とは、自分自身を肯定的に受け止める気持ちのことです。
つまり、「自分には価値がある」「自分はこれでいいんだ」と思える感覚です。
これは「自信」とは少し違います。
自信は「何かができる」という感覚に近いのに対し、自己肯定感は「できてもできなくても、自分を認められる」というもっと根本的な心の土台です。
自己肯定感が低い子どもに起こること
自己肯定感が低い子どもは、
- 失敗を過度に恐れて行動できない
- 指導を「責められている」と受け取ってしまう
- うまくいかないことがあるとすぐに「自分はダメだ」と思ってしまう
- 自分を守ろうと、反抗的な態度をとる
といった傾向があります。これは、学校生活の中で学習にも人間関係にも大きく影響します。
たとえば、ちょっとした間違いをしただけで「もうイヤ」「どうせできない」とあきらめてしまったり、
友だちとの会話の中で少し注意されたことを深刻に受け取り、教室での居場所を感じられなくなったり…。
このような状態では、どんなに優れた教材を使っても、どんなに丁寧な授業をしても、「学び」が入っていかないことが多いのです。
自己肯定感は「環境」と「経験」で変わる
でも、安心してください。
自己肯定感は「生まれつき」のものではなく、育てていけるものです。
- 小さな成功体験の積み重ね
- 認められる経験
- 安心できる人間関係の中での関わり
これらによって、少しずつ「自分って悪くないかも」「やってみてもいいかな」という気持ちが育っていきます。
特に、日常の授業やちょっとした活動の中で「できた!」「わかった!」という経験を重ねることは、
自己肯定感を高める第一歩になります。
その意味で、「コグトレ」は非常に相性の良い方法だと私は感じています。
コグトレがなぜ自己肯定感の向上につながるのか
コグトレ(認知機能強化トレーニング)は、一見すると「単純なプリント」や「遊びのような課題」に見えるかもしれません。
でも、その中には**「できた!」を積み重ねやすい仕組み**が詰まっています。
たとえば、課題の多くは難易度が低めに設定されていて、少しの集中と工夫で「正解」できるようになっています。
「勉強が苦手」「授業が苦痛」という子でも、コグトレなら「自分にもできる」と感じやすいのです。
【実際の体験より】
私が担当しているあるクラスに、
「どうせやってもムダ」「意味ない」と言って、いつも授業に関係ないことをして、妨害してくる女の子がいました。
普段の授業にはほとんど参加せず、プリントもノートも真っ白でした。
周りの生徒を巻き込んで私語やスマホばかりしていて、正直、どう関わっていくべきか悩んでいました。
そんな彼女のクラスでにコグトレを始めてみたところ
すぐに興味を持ち、取り掛かっていました。
その日は、集中して最後までプリントを終え、終わったあとには、「違う記号でやってみたい!(記号ささがしという、特定の記号の数をひたすら数えていく活動時でのこと)」と、提案をしてくれたのです。
ずっとそんな状況が続いてくれるほど、やはり簡単ではありませんが、授業の最初でコグトレを取り入れる中で、彼女は他の勉強にも、少しずつ取り掛かるようになりました。
劇的ではありませんが、確実に一歩進んだと、私自身も実感できています。
彼女にとって、コグトレは「自分を認められるきっかけ」になったのではないかと思います。
どんな子に効果があるのか?
コグトレは、特別な支援が必要な子だけのためのものではありません。
**「学習に自信がない」「集中力が続かない」「話を聞いていないように見える」**といった子どもたちにも効果を発揮します。
■ 授業についていけず、自信をなくしている子
「何を言っているのかわからない」「ノートをとるのが遅い」など、
授業のテンポについていけず、**“自分はできない”**という思いを強めてしまっている子には、
成功体験の積み重ねが何より大切です。
コグトレは、一つひとつの課題がシンプルで、取り組みやすいものが多いため、
「やればできた!」という感覚を、自然に味わうことができます。
■ 落ち着きがなく、集中できない子
じっとしていられなかったり、周りの刺激にすぐ注意がそれてしまう子にも、コグトレは効果的です。
たとえば、【間違い探し】や【線つなぎ】など、視覚的な刺激があり、短時間で取り組める課題は、
集中のトレーニングにもなります。
「いつもはすぐ飽きちゃうのに、これは最後までやってるね!」
と、驚くような姿が見られることもあります。
■ 自己肯定感が低く、投げやりな態度の子
「どうせムリ」「やるだけムダ」と感じている子にこそ、
“できた”という小さな成功体験が必要です。
コグトレでは、あえて「できて当たり前」に感じるような課題からスタートすることもあります。
それが、次第に「もっとやってみよう」という気持ちに変わっていくのです。
気をつけたい注意点
コグトレは万能なツールではありません。
使い方を間違えると、子どものやる気をなくしてしまったり、逆効果になってしまうこともあります。
たとえば、
- 無理にやらせてしまう
- 「できないこと」を責めるような声かけ
- 本人に合っていない課題を選ぶ
- きちんと褒めない
こうした使い方には注意が必要です。
くわしい注意点はこちらの記事でまとめていますので、ぜひご覧ください。
👉コグトレを授業で導入するときの注意点
まとめ:小さな成功体験が子どもを変える
コグトレを実践していく中で感じたのは、「できた!」という小さな成功体験が、子どもたちの心に大きな変化をもたらすということです。
授業が聞けない、集中できない——そんな状況にある子どもでも、「できること」に目を向けた関わりを重ねていくことで、少しずつ表情が変わってきます。
私の場合は、1番最初はうまくいったように感じて、途中で「あれ、やっぱり飽きられたかな」とがっくりしてしまうこともありました。それでも声掛けなどに工夫を凝らしながら続けていると、やっぱり続けてみようと思える瞬間がいっぱい訪れました。なので、少しくらいうまくいかないように見えても大丈夫です。
声かけの一つひとつ、課題の一つひとつが、その子の「土台」になっていきます。
コグトレは、特別なスキルがなくても始められるものです。だからこそ、続けることが大切です。
一人でも多くの子どもが「できた!」と自信を持てるよう、私たち大人の関わり方がその支えになります。
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